阪神・淡路大震災後、木造家屋の耐震性向上が叫ばれ、全国各地で伝統建築も多数の耐震改修工事が実施されていますが、その多くは筋違や火打のような斜材の補入や構造用合板釘打に依る壁面の剛体化であろうかと思われます。
こうすれば確かに建物は固くなり要求に応える手取り早い目に見えた方法ですが、その節点に応力集中を起こし、破壊に繋がるという指摘もあります。
また日本建築の美意識はどこへ行ってしまったのでしょうか。
我々の祖先は古代より筋違が剛体化に有効であることは知っていたが我が国であまり普及しなかったのは、日本人の美意識は斜材は好まず水平垂直の構成に依って美を生み出してきたと言われています。
地震国の日本で現在迄数多くの地震を経験して来たにも拘らず尚 水平垂直を指向して来たのは極く希にしか起こらない地震は人智では対抗不能と諦め日常の美意識を優先させて来たのであろうと思われますが、今ここに来てなぜ斜材一辺倒になったのでしょうか。
日本人の美意識より一生のうちに起こるか起こらないか解らない巨大地震に対して絶対安全性の方を優先させるべきなのか疑問に思うときがあります。
それ故、耐震改修に当っては出来る限り水平垂直を生かし地震力を分散させて緩やかに吸収していく方法を模索試行中です。
竣工外観
改修前外観
この本堂は床面積約360u、屋根面積約680u、棟高約12mの木造平屋建で次の3点を基本として耐震改修を行いました。
1.屋根の軽量化
従来は本瓦葺の土葺であったのを木造で下地を作り銅板葺きに変更しました。瓦と葺土は全部で約 118t あったものを解体撤去処分し、桔木や母屋の追加も含めて木造製作葺地重量 約 30t 、銅板やフェルト等 約 8t を付加したもので差し引き 約 80t 軽くなりました。
屋根瓦おろし
屋根野地現況
屋根野地をはずした状態
軒垂れ防止の為、桔木を取り替えて補強しました。
銅板葺きの為の母屋、束の調整
屋根野地の完了
銅板葺き完了
2.基礎をベタ基礎化
地盤は液状化し易い砂質土壌で、基礎は鉄筋コンクリート製の外周は地中梁布基礎、内部は独立基礎と地中梁の連結式でした。改修ではこの連結地中梁が小さかったので梁の上下左右四方を鉄筋コンクリート増打を行い、主筋も上下に追加して補強を図り、鉄筋は地中梁と連結して内部全てをコンクリート厚さ270oで固めベタ基礎化し、液状化と不同沈下に対応しました。
既存地中梁の補強
基礎の補強完了
3.壁配置の均等化、壁面の柔軟化、軸組節点の接着強化
社寺建築で耐震化を阻む最大の難所は壁配置の偏在による重心と剛心の不一致ですが、建物の用途上、これの完全な一致は難しく、少しでも現状より改善することで了としなければならないのが現状です。
この寺院でもご多聞に漏れず、正面桁行側に壁は一枚もなく背面は全て壁であった為、正面両端の隅柱間に巾2.5mの壁を新設、梁間方向の両妻面には巾2..0mの壁を夫々2ヶ所新設しました。
既存の壁は構造目的の貫以外は土壁を全て撤去しその跡に新設の壁も含めて杉45o×60oの桟木で縦横@400o内外の格子を組み、これを下地として木摺(40o×6o)を水平に打ち土壁塗りとしました。
天井吊木を追加補足し、振動に依る落下防止を図ると共に小屋組の連結部等の不良箇所を金物等製作し補強しました。
上記は今回の改修ですが、それ以前から関わって来た京町家や東本願寺御影堂の耐震補強では木製梯子型フレームが取り付けられましたが、いずれも水平垂直の構成部材側面のメリ込みによる曲げ抵抗を期待しての処置であり、日本人の美意識に受け入れられ易い方法だと思います。
この様な格子型や梯子型の部材の曲げ抵抗に依拠する補強方法は水平垂直意匠を可能にするばかりか地震力に緩やかに効くので水平加重の分散化にも有効であり、我が国の伝統家屋には合致した方法と言えると思います。
この他に過去に行った耐震要素の付加としては、頑丈な建具を嵌め込み、大変形時に水平加重を負担させる方法も有効と思われるので今後も状況に応じた工夫を考え、新築の場合にも積極的に採用し、よりしなやかで丈夫な建物を作って行きたいと念願しています。
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